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| 『――聴いてたんだ?』
彼の驚いたような声。 「……うん」 セレナーデ。 シューベルトの歌曲。 あたしの、心の、歌。 ――そしてきっと、彼の歌。 大学の授業で先生が取り上げて――だから、あたしも、内容を知っていたのだけど。 『――不意打ちだよ、この前はなにも言わなかったくせに』 もしかして、照れてる? 少し拗ねたような声音なの。 ――だって。 「だって、すごく、嬉しかったから……」 そう言うと、電話の向こうからは返事が返ってこなかった。 でも、嫌な沈黙じゃないの。 どこか、ふんわり、暖かいの。 「……ちょっと普通のと違うよね?」 今度は少し苦笑する風の声が耳に届く。 『リストが編曲したやつだからね』 そうなの? それから、また少し沈黙がおりて、彼の指が鍵盤を駆け抜ける音が聞こえてくる。 『……ちゃんと、聞こえる?』 うん、と、そう返事をした。 『じゃあ、弾くよ』 彼が言って、その後、コツンという電話を置く音が響いた。 そして、 あの日聴いたのと同じメロディを紡ぎ出す。
どこまでもロマンティックで、心の奥底に響く。 美しく、奥深く、想いを遠くに運ばせる。 そう……思ってた。
だけど、違った。 違ったの。 電話というフィルターがかかって、まっすぐ届いてこないの。 心を、貫かない。
だたただもどかしいだけ。 気持ちが募るだけ。 聴いたら、少しは気持ちが楽になるのかと思っていたのに。 素直に喜べるはずだったのに。 いとしい、と、そんな気持ちでいっぱいになるはずだったのに。 もっと、 もっともっともっと切なくなった。
「……会いたい」 思わず口からこぼれていて。 そして。 『――うん』 彼も、そう、声を返してくれる。 『……会おうよ』 ほんの少しの時間でも。 お茶を飲むだけの、そんなささやかな時間でもいいから。 「……うん」 一緒に過ごしたいよ。
会いたいよ。 今すぐにでも。 『会いに行くよ』 ……待って、いるから。 |
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| Fin. | |||||||||||
+ヒトコト+
作中の枠内はシューベルトによる歌曲 「セレナーデ〜白鳥の歌より〜」 の ルードウィヒ・レルシュタープ による詩です 和訳に関しては 「梅丘歌曲会館」に掲載されている 藤井宏行さんから快くお許しを戴き 掲載させていただきました この場でも御礼申し上げます 本当にありがとうございました! |
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